「遺言」という言葉自体をご存知の方は多いと思いますが、あまり普段の生活では馴染みのないものです。
ましてや、必ず用意しなければならないものでもなく、また早めに用意しておいた方がいいというものでもありません。
ただ時として、遺言書は「絶大な力を発揮すること」があります。
例えば、法律上の相続割合と異なる割合で相続をさせたい人がいる場合、相続人の関係が複雑で手続きがスムーズに進まない可能性がある場合、家族に伝えたいことがある場合などには、遺言を残した方が良いと思います。また、他人に遺産を譲りたい場合には、必ず遺言が必要になります。
- 「遺言なんて縁起でもない。うちには必要ない」
- 「遺言書を書くほど財産がないから関係ない」
と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、

遺言で完全に相続トラブルがなくなるというわけでは決してありませんが、最期の意思をきちんと表明しておけば、
その後の相続手続きに大きな差が生まれるのは間違いありません。
相続をめぐる相談を受けたとき、「遺言さえあれば争いは生じなかったのに」とか「遺言さえあればこのように不当な結果にならなかったのに」と感じさせられることが多々あります。
特に遺言をおすすめしたいのは、次のような方々です。
親不幸な子供、離婚訴訟中の配偶者、離縁訴訟中の養子などは、遺言なしに死亡すると、財産をあげたくなくても当然に相続してしまいます。ですので、遺言で他の人に相続させる必要があります。
子供のいない夫婦の場合、どちらかが死亡すると相続人は、配偶者と亡くなった方の親または兄弟姉妹となります。しかし、遺言さえしておけば、自分の配偶者にすべて相続させることができます。
特に相続人が兄弟姉妹の場合には、遺留分もありませんので、一切口出しをさせずにすみます。
面倒をみてくれた人にあげたい、お寺や施設等に寄付したいという人は、その旨を遺言にしておく必要があります。
農業や会社などの経営者の方の資産(農地や株)を、後継者一人に相続させることによって、事業の分散化を防ぐことができます。
遺言で遺産分割の方法などを明確にすることにより、紛争を防止することができます。
認知症の配偶者や心身障がいのある子供がいる場合、特に多めに遺産を相続させ、今後の生活の安定を図ってあげることができます。
遺言は、満15歳に達していれば単独ですることできます。
また、遺言書を書くにはその意思能力(遺言能力)が必要です。
つまり、自分が書いている遺言書の内容を、本人が理解することができなければなりません。
認知症だと思われる方が、遺言書を書く場合は注意が必要です。
上記の要件をクリアしたとして、実際に遺言書を作成する方法は3つあります。
- 全ての文章を自分で書き、一番作成しやすい、自筆証書遺言、
- 原案をもとに公証人に遺言を作成してもらう、公正証書遺言、
- 内容を秘密にしたいときに作成する、秘密証書遺言です。
※秘密証書遺言は、使いづらいこともあって利用者がほとんどいないのが実情です。
それぞれの遺言の特徴を表で示すと以下のようになります。
| 遺言の種類 |
遺言の証人 |
遺言を 書く人 |
遺言の 署名捺印 |
検認 |
遺言の特徴 |
| 自筆証書遺言 |
不要 |
本人 |
本人 |
必要 |
- 秘密が保てる。
- 保管・発見が難しい。
- 内容・訂正方法の不備不安。
|
| 公正証書遺言 |
2人以上必要 |
公証人 |
本人
証人
公証人
|
不要 |
- 専門家が作成するので
内容・保管の点で安心。
- 秘密が漏れる不安。
- 公証人の手数料が必要。
|
| 秘密証書遺言 |
公証人1人
証人2人
|
誰でもいい |
本人
証人
公証人
|
必要 |
- 秘密が保てる。
- 保管が安心。
- 内容・訂正方法の不備不安。
- 公証人の手数料が必要。
|
基本的には何を書いても結構です。好きに書いてください。
法律で定めた方式に基づいて遺言書を作成していれば、内容に関してはあまり厳格な規定はありません。
注意が必要な点として、例えば、所有している土地について遺言書に「○○に相続させる」と書いてあるにもかかわらず、遺言者が生前に売ってしまって相続発生時には存在していなかったり、遺言書の書き方について不備があったりすると、その箇所については無効となります。
法的に効力をもつ内容は以下になります。

- 認知
- 財産の処分(遺贈・寄付行為)
- 後見人、後見監督人の指定
- 相続人の廃除、その取消
- 相続分の指定、その指定の委託
- 遺産分割方法の指定、その委託
- 相続開始から5年以内の遺産分割の禁止
- 共同相続人の担保責任の指定
※ 相続人が複数いる場合、その相続分に応じてそれぞれの相続人が他の共同相続人に対して担保責任を負っているのですが、遺言書によって変更することができるということを意味します。
- 遺言執行者の指定、その指定の委託
- 遺留分減殺請求方法の指定
以上のことから「死後に臓器提供をしたい」とか「自分が死亡しても再婚しないで欲しい」などのご自身の希望や、
「俺には膨大な借金があるから、後をよろしく」などの告白を遺言書として残すこと(これを付言<フゲン>事項といいます)自体は可能なのですが、それを守るかどうかは結局「遺族の判断」となります。
残念ながら法的な拘束力・強制力は持ちませんが、書き残す意味は十分にあると思います。
遺言書を残しても、本人の死後にその真意を確認できないことから、非常に細かい作成要件が定められています。
「自筆証書遺言」の場合、遺言者が全文、日付、氏名を自書し、印鑑が押印されてなければなりません。
この要件が満たされていない場合、自筆証書遺言としては無効になってしまいます。
ご自身で遺言を用意しても形式的に無効であったり、文章に意思がうまく反映されていなかったりなどして、後の手続きに使用できないような不備が存在するケースが多々あります。
そうなると、必ずと言っていい程相続トラブルが発生いたしますので、十分注意が必要です。

- パソコンで作成した自筆証書遺言(秘密証書の場合を除く)
- ビデオテープ・カセットテープなど改ざんされやすいもので作成した遺言
- 夫婦二人共同して書かれた遺言(遺言は単独で書かなければならないため)
- 日付が特定できない遺言(特に自筆証書遺言)
- 訂正方法に不備がある遺言
- 無理やり書かせた遺言(遺言者の手をつかんで強引に書かせたなど)
結論から申し上げると、何度でも書き直すことが出来ます。
簡単に書き直しができないようであれば、前もって遺言書を書いておこう、という気がなくなってしまいます。
内容の違う新しい遺言書を作成することによって、古い遺言書を取り消すことができます。
自筆証書遺言において、遺言書を作成した「日付」の特定が要件の一つとなっているのは、このためでもあるのです。
できれば、後々のトラブルを避けるためにも、新しく遺言書を作成した場合は古い遺言を破棄するなどして、
相続人の方にわかりやすく遺言書を残してあげるのが親切でしょう。
